半島を出よ

半島を出よ〈上〉 (幻冬舎文庫)

半島を出よ〈上〉 (幻冬舎文庫)

半島を出よ〈下〉 (幻冬舎文庫)

半島を出よ〈下〉 (幻冬舎文庫)

概要

北朝鮮の特殊部隊9名が福岡ドームを占拠.その2時間後,レーダーでの発見が困難である複葉機「アントノフ2型輸送機」で福岡に上陸した特殊部隊500名により福岡市街地が占拠される.彼らは自身を「高麗遠征軍」と名乗り,北朝鮮の反乱軍であると主張する.後続部隊12万が上陸するまでの10日間を描いた物語


様々な立場の視点で話が進行する.目的や責任の所在が不明のまま,目の前の問題の処理に明け暮れる日本政府,それとは対照的に明確な作戦を持ち,その準備を積み重ねた高麗遠征軍の対比が面白い.戦略なく作戦が立案され現場の判断で行動する.戦前から繰り返されてきた過ちが,この物語ではSATの突入失敗という結末を生んだ.


また,”人体が破壊される”描写が圧巻.淡々とその様子を描くことで,人間の脆さを際立たせている.それと同時に,漠然と了承している”かけがえのない命”という概念すらも否定されうることを,死亡した老人の飛び出した内臓を「ウンコ」と例えた表現が示している.

緑の太い糸で編んだベストを着たその老人は,背中を撃たれ,弾丸は体内を斜め下に突き進んで下腹部から飛び出た.体内に起こった衝撃波でいくつかの臓器が破裂し,股間部に開いた大きな穴からまるで赤黒く巨大なウンコのようにその残骸がこぼれ落ちたのだ.


また,占領軍が我々の財産・権利・生命を保証してくれる,などという考え方が根本的に幻想であることがまざまざと見せつけられる.物語の中で高麗遠征軍は不正に金を稼いだとされる人々を,明確な法的根拠もないままに逮捕・監禁・拷問し,全財産を徴収した.一方で,市民とともに福岡を独立させることを作戦目標に掲げる高麗遠征軍は,一般市民に対して紳士的に振る舞う.しかし,いずれは要・不要に応じて選別されるであろうことを市民は理解していた.不要とされれば,それは死を意味する.非武装中立論者のなかには占領されることを容認する人もいる.しかし,それがどれだけ危険な賭けであるかは再考しなければならない.

目次・ポイント


prologue 1 ------- 2010年12月14日 川崎 ブーメランの少年
prologue 2 ------- 2010年3月21日 平壌 朝鮮労働党三号庁舎・第一映写室
introduction 1 --- 2011年3月3日 見逃された兆候
introduction 2 --- 2011年3月19日 待ち受ける者たち
phase one 1 ------ 2011年4月1日 九人のコマンド
phase one 2 ------ 2011年4月2日 種のないパパイヤ
phase one 3 ------ 2011年4月2日 ゾンビの群れ
phase one 4 ------ 2011年4月2日 アントノフ2型輸送機
phase one 5 ------ 2011年4月2日 宣戦布告
phase two 1 ------ 2011年4月3日 封鎖
phase two 2 ------ 2011年4月3日 円卓の騎士たち
phase two 3 ------ 2011年4月4日 夜明け前
phase two 4 ------ 2011年4月5日 大濠公園にて



phase two 5 ------ 2011年4月6日 死者の舟
phase two 6 ------ 2011年4月7日 赤坂の夜
phase two 7 ------ 2011年4月8日 退廃の発見
phase two 8 ------ 2011年4月9日 処刑式
phase two 9 ------ 2011年4月10日 「良い旅を」
phase two 10 ----- 2011年4月11日 通報者
phase two 11 ----- 2011年4月11日 美しい時間
phase two 12 ----- 2011年4月11日 天使の白い翼
epilogue1 -------- 2011年4月14日 赤坂
epilogue2 -------- 2011年5月5日 崎戸島
epilogue3 -------- 2011年6月13日 姪浜

参考図書等