仕事漂流

仕事漂流 ― 就職氷河期世代の「働き方」

仕事漂流 ― 就職氷河期世代の「働き方」

概要

就職氷河期に有名大学を卒業し,有名企業に就職したにもかかわらず数年でやめてしまった若者を取材し,物語にしたノンフィクション.


物語としての作品性を上げるために時系列が多少前後するので,読みにくいといえば読みにくい.

内容

第1章 長い長いトンネルの中にいるような気がした 都市銀行→証券会社 大橋寛隆(33)
第2章 私の「できること」って,いったい何だろう 菓子メーカー→中堅食品会社 中村友香子(30)
第3章 「理想の上司」に会って会社を辞めました 中堅IT企業→人材紹介会社 山根洋一(30)
第4章 現状維持では時代と一緒に「右肩下がり」になる 大手電機会社→大手電機会社 大野健介(32)
第5章 その仕事が自分に合っているかなんてどうでもいい 中堅広告代理店→大手広告代理店 藤川由希子(29)
第6章 「結婚して,子供が生まれ,マンション買って,終わり」は嫌だ 大手総合商社→ITベンチャー 今井大祐(29)
第7章 選択肢がどんどん消えていくのが怖かった 経済産業省→ITベンチャー役員→タイルメーカー役員 原口博光(32)
第8章 常に不安だからこそ,走り続けるしかない 外資コンサルティング会社→外資コンサルティング会社→MBA留学 長山和史(33)

感想

私は彼らの3年程度下の世代である.しかも2008年入社であり,ちょうど団塊世代が抜けることに伴う採用拡大の年であった(私の就職前後1年間が採用が増えた時期である).しかし,枠が増えたからと言って就職活動が楽になったわけではない.その会社に就職したい理由を明確にしなければならない.したがって,彼らの気持ちは痛いほど理解できる.


私の場合はソフトからハードまで開発できるエンジニアとして自分を売り込んだ.そのための電子情報エネルギー工学科卒であり,情報ネットワーク学専攻であり,論理設計のバイトであり,サーバ構築のバイトであった.


また,日本企業が年功序列であることが嫌だった.搾取されることは感覚として意識していた.だから,まずインターンでフリースケールに行き,外資なるものを経験してみようと思った.2006年のフリースケールは好調だった.インターンの私にもそれなりの仕事を与えてくれた.特に,最初予定にはなかったが強く希望したSideShowガジェットの作成をさせてくれ,それなりの成果を残せたことは私の中でも成功経験となった.だから,そこに就職できる事はうれしかったはずだ.


しかし,入社1・2か月ですでにその会社が全く違うものになっていると気付いた.あるのはサポート業務ばかりであった.私の信念はエンジニアは手を動かして開発しなければ得られることはないというものである.しかし,そこはデータシートを読み,分からなければ年長者やUSに質問するだけで事足りる世界だった.


はたして開発経験もない初心者のような人間のサポートをどこの会社が受けたいというのか.例えるなら,C言語の文法を入門書で理解しただけで一度もプログラミングしたことのない人間が「自分はC言語のエキスパートです」という顔をして顧客サポートするようなものである.ある種,詐欺ではないか?まあ,優秀なお客様はそんな体制をきっちりと見抜いていたが.


少なくとも,論理設計もソフトウェアプログラミングも,日本人が組織力でやる必要性は薄れている.だから会社がグローバルでそういう方針をとることも理解できる.だが,そうであるならば最初から方向性の違う人間を雇うな,と言いたい.


彼らが会社に見切りをつけ,転職を行ったのは概ね団塊世代がいなくなるため,転職市場が大きかった時期だ.だからかなり強引なパスでもやり直しがきく可能性はあったようだ.しかし,今はもう転職市場は完全に冷え切っている.そしてそのようなチャンスも2度とないだろう.完全に詰んでしまった.

調査事項