人はなぜ物を欲しがるのか

要約

所有がなぜ発生するのかを社会的・生物学的観点から整理し、我々がなぜ所有をやめられないのかを明らかにする。所有は格差を固定し、環境へも悪影響を与える「悪魔」的存在。文化によって所有への自己感は異なるので、教育次第でどうにかなるという希望もある。

内容

第1章 本当に所有していますか

「所有とは」という問いに対し、様々な視点・歴史的事象を提供

  • 自分の体の所有権は誰にあるのか、処分権、遺体の所有者
  • ジョン・ロックの財産の定義「労働という形で、あるいは購買による価値の付与という形で、自分が労力をかけたものに関しては、財産所有権を主張できる」ー>奴隷制では矛盾をきたす
  • 実際には文化ごとに財産の定義は異なる
  • 妻の所有権・子の所有権
  • 6歳ごろには知的財産権を理解
  • ジェレミーベンサム「所有は・・・頭の中にある概念にすぎない」
  • 法律・ルールによる所有と心理的所有

 

第2章 動物は占有するが、所有するのは人間だけ

所有という概念が社会になぜ必要で、小さい子供でも身につけているのか

  • 競争心が所有欲を刺激
  • 占有:資源の排他的アクセス権(最初の占有者ルール)
  • 所有:政治体制・法制度が発展すると生じる(譲渡・継承は所有のルールに従う)
  • 人間は所有物に自ら価値を見出した最初の物質主義の動物
  • 人間は第三者が他人の財産を守る介入を行う(3歳)
  • 地球規模でコモンズの悲劇を引き起こしているのは、自分には法的な所有権があると信じる個々の国

 

第3章 所有の起源

所有という概念をどうやって身につけるのか

  • 概念に基づいているという意味で、所有もコンセプチュアル・アートも同じ
  • 子供の所有権の身につける順番は順位性・友情・利他的
  • 所有の概念の確立は視覚的関連付けと言語による指示
  • 所有者の判定に必要なものは意図・目的・傾注された努力(コンセプチュアル・アートは意図が最も重要)
  • 移行対象に代表されるように、所有こそ幸福の源と信じて所有物を蓄積する

 

第4章 それが公平というものだ

公平とはなにか、そしてなぜ格差が生まれるのか

  • 幼児期から不平等は許容されない
  • 大人は努力した分報われるべきという公平性を重んじる
  • 正確に見積もれないので実際には公平ではない
  • 所有が格差を生み、保存され、不公平を永続させる
  • 互恵的利他行動は動物にも見られるが、所有があると特に相手を見極める必要があり、違反者の情報を正確に記憶するために怒りが発生する
  • 不純な利他主義とは他社の意見を内在化した内側からの動機づけ
  • 事前行為すらも「名声」を「得る」という所有行為

 

第5章 所有と富と幸福

なぜ所有物を増やすようになったのか。そしてなぜ所有物を増やしても幸福感は頭打ちになるのか。

  • 消費主義は産業革命以前から存在
  • 産業革命で、過剰生産の問題を賃金引き上げによる購買力上昇で解決
  • ブランド品はシグナリング
  • カウンターシグナリングは意図的に規範に背くときのみ有効
  • 超富裕層はロゴの目立たないブランド品を所有することで一般人の妬みを避けつつも、その層の中でのシグナリングを行う
  • 富によって幸福になれないのは、相対的に比較をするから。常に上は存在する。
  • 快楽順応により、常に新しいものを追い求める
  • 所有物を見せびらかしたいという欲望は、教育投資を不可能にし、悪循環を生む
  • 収入の増加に対し、幸福感は頭打ちになるが満足感は比例する
  • モノよりコトを買うほうが満足感は大きい。モノは飽きるが、コトは思い出すたびに美しい思い出に変化するため。

 

第6章 私のものとは私である

所有物と自己感

  • 「所有物を通して自己のシグナルを他者に発信しているが、所有物はまた、自分は何者かというシグナルを私たち自身に発信し返すもの」
  • 個人主義/集団主義と水平的(見せびらかしに嫌悪)/垂直的(見せびらかしによる地位向上)
  • 自己感は文化的なもので決まる。教育により所有に対する態度が決まる
  • 「藪の中の二羽より手中の一羽」

 

第7章 手放すということ

なぜ所有に関して非合理的な行動をとるのか

  • 「授かり効果」も個人主義/集団主義で異なる
  • 獲得したいと追い求める心が消費主義を作る
  • 土地への所有者意識がアイデンティティを形成
  • 自己と同一視する所有物を過大評価するが、同時に所有物に慣れて多くのものを所有しようとする。そしてそれにより自己をよく見せようとする。非合理的な行動。
  • 「私たちは所有という悪魔に取り憑かれている」

 

おわりに

1〜7章のまとめ

  • 「所有すればするほど、不公平は大きくなる。道徳的に好ましくないというだけでなく、環境を破壊し、政治を分断させる。」
  • 「所有物の増加でかえって惨めな思いを味わう人もいるということが、科学的に立証されている。」
  • 「必要なのはもっと多くのモノではなく、いま手にしているものの価値に気づけるだけの十分な時間だ。」

感想

「では、どうすれば所有の問題を解決できるのか」といったことが具体的に示されてはいない。しかし、所有したくなるメカニズムを理解することで少しでも所有欲にあらがうことができると考えられる。

 

「はじめに」にある「消費者向けの広告の大部分は、『この商品を所有すればもっと幸福になれます』という”約束”を売ることで成り立っている」という文には、なるほど感じた。