「未納が増えると年金が破綻する」って誰が言った?

「未納が増えると年金が破綻する」って誰が言った? ~世界一わかりやすい経済の本~ (扶桑社新書)

「未納が増えると年金が破綻する」って誰が言った? ~世界一わかりやすい経済の本~ (扶桑社新書)

概要

面白いほど分かるシリーズの細野氏の本.前書きに書いてあるが,この本は「数学嫌いでも『数学的思考力』が飛躍的に身につく本!」に対して「ドラマの映画化」的な位置づけらしい.


第1章,第2章は数学的な話,第3章はサブプライムローン,第4章が本のタイトルとなっている年金の話である.


相変わらずのわかり易い文章で簡単に読める.年金の話も,細かい制度を割と必要な部分だけ効率的にピックアップされている.

内容

第1章 学力や思考力は日常の会話方法で飛躍的にアップする
  • どうすれば「思考力」が身に付くのか?
  • 親子間で「論理的思考」を磨く会話法
  • ニュースに強い子供は食卓から育つ1
  • ニュースに強い子供は食卓から育つ2
  • 「本物の学力」を身に付けるためには?


コラム「数学的思考力」って何? 〜知っておくべき2つの思考力

  • 「数学的思考力」とは?1
  • 「数学的思考力」とは?2
  • 「数学的思考力」を意識した「きっかけ」
  • 「数学的思考力」を身に付ける重要性
第2章 なぜ人は「宝くじの行列」に並んでしまうのか?
  • 株と宝くじは,どっちがハイリスク?
  • なぜ宝くじの行列に並んでしまうのか?
  • 「宝くじの行列」のカラクリとは?
  • なぜ人は投資で失敗してしまうのか?1
  • なぜ人は「バブル」に踊るのか?
  • 「バブル」から学ぶべき「本質」とは?
  • なぜ人は投資で失敗してしまうのか?2
  • 不景気で分かる「投資」の本質とは?
  • 投資で失敗しないための実践演習1
  • 投資で失敗しないための実践演習2


コラム 経済のニュースが分かるために必要な情報量はどのくらい?

第3章 なぜアメリカの住宅ローン問題で私たちの給料まで下がるのか?


コラム 「先読み」の能力について 〜経済はどこまで見通せるのか?

  • 「先読み」と「時期」について
第4章 「未納が増えると年金が破綻する」って誰が言った?
  • 国の年金が破綻するって本当?
  • そもそも「年金問題」とは?
  • そもそも「年金の仕組み」とは?
  • 私たちの保険料は「積み立て」なの?
  • 国の年金は若い人ほど損する?
  • 国民年金に加入すると損するって本当?
  • 国と民間の年金の違いは?
  • 国の年金に加入するメリットは?
  • なぜ国の年金は「仕送り方式」なのか?


コラム 年金は何歳からもらうと得することになるの?

  • 年金問題」の最大の焦点は?
  • 「未納問題」を解決する方法は?
  • 「税方式」論の最大の焦点は?
  • 「税方式」論の「間違い」とは?1
  • 「税方式」論の「間違い」とは?2
  • 「未納者」増でも破綻しない理由!
  • 参考までに,少し専門的な話
  • 「税方式」論の具体的な問題は?
  • 「未納問題」の本質とは?
  • 保険料を払えない場合は?


コラム 現在の年金の仕組みにおける私の考える課題について

  • 生活保護費」と「年金」の関係
  • 「消費税」と「社会保障」の関係
  • 「消費税」と「消費」の関係
  • 増税」と「安心」の関係
  • これからの年金の考え方について1
  • これからの年金の考え方について2


コラム 新聞社が一方的な主張を続けると,読者の主張も偏る?

  • 年金報道から学びたい教訓

感想

数学的直感力

原油の価格が上がるとスパゲッティ/マヨネーズの値段が上がる」のなかでなるほどと思ったのは,とうもろこしがバイオ燃料に使われるというフローが挟まっている点である.とうもろこしが燃料に使われるととうもろこしの価格は上昇するが,それにより以下のような波及がある.

  • スパゲッティの場合は小麦生産者がとうもろこし生産に流れる
  • マヨネーズの場合は油の原料はとうもろこし,卵を作るための餌がとうもろこしである
数学的思考力
  1. 論理的思考:情報をフローチャートにまとめる力
  2. 情報の本質を見抜く思考力:「直感力」によって「仮説」を出し,それを論理的に「検証」していく思考力

とある.

日本の数学教育(特に大学)では公理→定理→証明が延々と繰り返されるが,これは1の能力を鍛えることには貢献している.しかし,2の能力を鍛えることは問題を解くなどして自分でしないといけない.とは言いつつも,問題に答えがついていないことも多いし,どうやって勉強するのだろうか?

年金問題

国民年金では納めた保険料の1.7倍,厚生年金では2.3倍を平均的に受け取れるとある.そして若者の負担を削減するために税金負担が1/3から1/2に引き上げられたのは事実である.しかし,裏をかえせば今後も足りなくなれば税負担に頼ることになる.その場合,年金を受け取りながら自分も税負担を課せられているため,差し引きで考えればやはり受取額は減っていると考えるべきではないか?


年金給付費は2009年:19兆円,2010年:23兆円,2025年:28兆円,2050年:56兆円*1.ちなみに,平成22年の国家予算・一般会計*2は92兆円,特別会計*3は176兆円である.一般会計の約半分が国債により賄われていることを考えても,国庫金による支出はさらに未来の若者に対して負担を増加させることは明らかである.


さらに,このシミュレーションにおける人口増加率も重要な要素となる.どのような人口を予測しているのかもしりたいところだ.


また,所得代替率については次のページが参考になる.
http://news.nifty.com/cs/magazine/detail/diamond-20100615-05/1.htm


pp.145で

ちなみに,この「仕送り方式」によって基本的に現役世代は,引退後の両親や祖父母らに直接「仕送り」をする必要もなくなっています.

とあるが,これも詭弁である.事実上行われいることは子供世代から親世代への支払いである.負担が軽減されているのは

  • 借金に支えられた税金の投入
  • 親が死亡している人からの支払いの存在
  • 年金受領者自身が所得税から支払い

というポイントがあるからである.結局は未来からお金を借りている部分が大半だ.


税方式に変更した場合,厚生年金の会社負担がなくなるため経団連が積極的だったらしい.これはなるほど,と思ったが,税方式にするのであれば会社に対して何らかの税負担はさせる制度も盛り込むべきだろう.


日本にはサラリーマンが多く,未納者問題で対象となる1号保険者の動向が全体にほとんど影響を与えないことはそのとおりである.また,年金は老齢年金だけではなく,障害年金・遺族年金があるという意味で,またマクロスライドするという意味でやはり支払うべきだと思う.


遺族年金の存在や,健康保険の支払上限を正しく理解していれば,無駄な生命保険は医療保険を支払わなくなる.浮いた文を社会保険に回すのが良い.