スピリチュアリズム

スピリチュアリズム

スピリチュアリズム

概要

基本的に江原氏とそれを利用するメディアそしてオウムを批判している本.一部誤った記述があるらしいが,あまり重要ではないのでスルーしてよいと思われる.

最も読む価値があるのは補遺の項である.ここでは輪廻が業によって引き起こされるということを分かりやすく解説している.また,P.67〜の仮観,空観,中観思想の説明も分かりやすい.

内容

はじめに 真実のスピリチュアリズムとは

21世紀のスピリチュアリズムの真実を正面から捉えた人はいない.洗脳原論が洗脳を理解するための基本書となったのと同様,この本がスピリチュアルを知る上でまず読まれる本になる.

第一章 スピリチュアリズムは「霊的真理教」

スピリチュアリズムの歴史.1848年3月31日,フォックス家のマーガレットとキャサリンチャネリングを開始.事実は姉妹の足の関節音や木造の家の軋む音だった.しかし,全米でチャネリングができるとう人間が現れ始めた.


イギリスでも心霊研究が盛んになり1872年にSAGB(Spiritualist Association of Great Britain)=英国スピリチュアリスト協会が,そして1882年にケンブリッジでSPR(The Society for Psychical Research)=心霊現象研究会が設立された.さらにこれが明治時代の日本に伝わり,「福来助教授と千里眼事件(1910年)」を起こした.


福来助教授の錯覚は変性意識状態によってひきおこされた.催眠は同調現象であるので,互いにひとつの臨場感空間に同調している.江原氏をはじめ,スピリチュアリストはシッティングにおいてこのように霊をみている.健忘暗示で相手のことを当てているように見せることもできる.


現代のスピリチュアリズムの源流はアメリカのニューエイジ思想(ヒッピー・ムーブメント)にある.ユリ・ゲラーの超能力,UFOブームなど,1970年後半にブームが沸き起こった.UFOは特にスピリチュアリズムと結びつきやすい.UFO教では霊にレベルがあり,その理論では宇宙霊が最も地位が高いからだ.


さらに,統一教会,ハーレ・クリシュナ,バグワン(Osho),GLA教団,サイエントロジー幸福の科学といった新興宗教が勃興した.特に,1921年に「霊界物語」を著した出口王仁三郎による大本教はスケールが大きい.宗教には壮大なスケールが必要で,その意味では旧約聖書が一番,コーランor新約聖書が二番.


江原氏は霊媒体質(=被暗示性が高く催眠に入りやすい)を持っている.よって,深い変性い意識状態に入りやすく,相手を引きずり込みやすい.ここで用いられるのは心理療法家ミルトン・エリクソンが発明した自然主義催眠である.催眠技術は催眠下でしか学べない(身体から身体への伝達)ため,江原氏はイギリスへ何回か留学するうちに,自然と学んだのだろう.


江原氏は典型的な「自分探し君」であり,まだまだ発展途上である.彼が学んだ「アートマンは永遠」「輪廻転生」「ステージが上がる」という思想はインド・チベット密教の入り口であり危険である.カルマ解消のために死ねばあの世で幸せになれるというのは紛れもないポア思想(タントラ・ヴァジラヤーナ)だからだ.


第二章 スピリチュアルの誘惑

おばさんはとげぬき地蔵,おじさんは退職後に仏教にはまるケースが多い.女性は霊媒体質が強く,スピリチュアルに走る傾向がある.しかし,何らかの技術を使わなければカルトに向かわせるのは難しい.男性はサラリーマンの世界という仮観(抽象度が高い)の世界から空観の世界に興味を持つ.しかし実際は物理的仮観が宗教的仮観にすり替わっただけである.テレビの影響でこういった人たちがいきなりスピリチュアルに引き込まれるのは危険な状況だ.


日本的宗教観や迷信はいろいろある.丙午迷信,平将門の祟りもそうだろう.また,迷信など信じないという人も信じられないような習慣や迷信に動かされていることが多い.自殺者の出たマンション・裏がお墓のマンションが安かったり,病院の遺体の搬送口が被差別部落に向けられていたりするのはその例だ.ユダヤ教キリスト教イスラム教のような一神教では司祭等に聞けば教義体系が維持されるが,日本人は確固たる伝統宗教を持たず,しいて言えば迷信こそが日本教なのかもしれない.


今の子供は生き返りを信じる傾向が強い.死に対するリアリティが感じられないという子供たち死生観のありようが危惧される.これにはテレビや映画が影響している.ファンタジーでは生まれ変わりが自然な形で織り込まれている.ゲームの影響が少ないのはフィクションだとわかっているからだが,子供たちにとってテレビはフィクションではない.なんとなくのイメージで生まれ変わりが教義として埋め込まれているテレビや映画=スピリチュアル教を受け入れてしまう.


細木数子氏はスピリチュアルではなくオカルト,すなわち宗教性がない非科学である.大して占いは当たっていない.そもそも占い学校で教えることはカウンセリングである.細木数子氏の問題はやっていることが催眠商法に近いことだ.相手を脅してストックホルム症候群に落としいれ,好意を持たせる(変性意識状態).江原氏の催眠術のテクニックは1960年代,細木氏のテクニックは19世紀ぐらいのものだ.



江原氏は「自分探し君」の純粋な男の子なので,まだ幻覚を消すことができるという意味で救いがある.しかし,エハラー現象に見られる日本のメディアの番組制作姿勢が問題だ.それにより若い人がどんどんスピリチュアルに向かっているからだ.江原氏が善人に見えるのはそのように編集しているからである.スピリチュアルにはまっている人に対してはこの世で生きていけるようにしてあげるしかない.


米アーサー・S・デモス財団が行っている無料冊子配布運動”Power For Living”がテレビCMで大々的に流れるのも問題だ.宣伝で「神」と明言されているからだ.ドイツでは放送禁止になっている.いかなる宗教・宗派であれテレビはCMを流してはいけない.デモス財団の時価総額は4億ドルで,ファンドの運用益は3600万ドル(2003年).しかし2004年度分の納税額はたったの20万ドルである.寄付金による税の免除を行っており,その内訳は以下のとおり.85%がキリスト教原理主義者とタカ派ロビイストへの寄付金となっており,「クリスチャン・マフィア」的な活動であることも否めない.

計:2900万ドル


宗教団体をカルトかどうかに認定する判断基準のひとつが「社会がすでに持っている価値観からどれだけ乖離しているか」である.また,周りの人が宗教団体に入ったときにやめさせるかどうかの判断基準は「入信前に言われたことと入信後にしていることが同じ」かどうかである.教義はたいてい当たり障りのないことしかかいておらず,社会通念上認められるかどうかで判断すべきだ.


第三章 究極のスピリチュアルはオウム

スピリチュアリズム=霊的真理教は元々チベット密教もしくはヨーガからきている.オウムもヨーガの体系から入り,チベット密教的な教義を採用するにいたった.その思想背景の体系化には中沢新一が一役買っている.これにより,日本で初めてスピリチュアリズムが体系化された教義を持つこととなった.思想がなければ小規模な「神仙の界」で終わっていたはずだ.


ヨガにはハタ・ヨーガ,クンダリニー・ヨーガ,ラージャ・ヨーガという体系がある.

  • ハタ・ヨーガ:その後のヨーガをやるための体を作る.アーサナでプラーナ(気)が通りやすいポーズをとる.
  • クンダリニー・ヨーガ:エネルギーのヨーガ
  • ラージャ・ヨーガ:瞑想のヨーガ

一般に呼ばれるヨーガはハタ・ヨーガの一部をエクササイズのようにして取り入れたものだ.本来のヨーガはバラモンの修行で,身体的な運動→エネルギー感に集中→抽象化された瞑想だけでドーパミンを出すという段階を踏んでいく.

ヨーガの本質は瞑想である.瞑想でドーパミンセロトニン,エンドルフィンが分泌される.ドーパミンは運動物質で,身体性を伴う刺激で出る(痛みも).ドーパミンが不足すると腰が曲がって老人のようになる.また,脳幹・中脳・古い大脳皮質・新皮質へドーパミン神経軸策が広がっている.人間は抽象思考を身体でやっており,IQが高いというのは情報空間を五感で感じてさらに操作できる状態である.そして瞑想を行うと大量のドーパミンを出して気持ちよい体験ができる.長時間抽象度の高い瞑想ができる.


超能力とUFO世代の後に来るのが,1986年にスタートしたオウム真理教である.オウムはスピリチュアリズムが行き着く論理的帰結である.オウムも江原氏もカルマを解消するためにこの世にきて,本当の世界はあの世であるといっている.すなわち,チベット密教の純粋な空の思想と直結している.彼らはこの世に貢献しないといけないといいつつも,現世利益を否定する.これはポアの論理でチベット密教の理論だ.

洗脳とは,「認知レベルを含む脳内情報処理になんらかの介入的な操作を加えることで,その人の思考,行動,感情を思うままに制御する」こと

洗脳は脳の内部表現を書き換えることだ.かつてのソ連や中国では恐怖によって行われた.恐怖は現実世界から逃避させ,強い臨場感世界を作るからよく効く.そしてその世界をコントロールする支配者に強い好感を抱くというのがストックホルム症候群である.オウムで行われていた洗脳方法はLSDなどの違法薬物,真っ暗な部屋に閉じ込めて睡眠を奪う,ヨーガなどがある.

洗脳には,必ずトランス状態が介在しますが,この場合のトランス状態とは,変性意識がより深まった状態を言います.仮想世界に現実世界より強い臨場感がある状態です.洗脳された状態とは,何らかの手法で生成された変性意識状態によって,洗脳者が築き上げた仮想世界でのホメオスタシス・フィードバックが現実世界でのそれよりも強くなったトランス状態が継続している状態です.夢を本物と思ってしまう感覚です.


宗教はありとあらゆるディベート体系を持っているので侮ってはいけない.チベット密教もその一つで,論理的矛盾に対する答えもちゃんと用意されている.宗教の論理を甘く見てはいけない.


チベット密教原理主義の団体がオウムである.空の思想ではアートマンも空だと考えるため,殺してもよいことになる.これがポアの思想である.空の思想とは観測者が作り出した情報状態に過ぎないという思想である.これに対し,龍樹(アーガアルジュナ)は中観思想を体系化した.仮観により機能・役割をもたせたのだ.ちなみに,ブッダの思想には元々中観思想は含まれていた.プロテスタンティズムは仮観の宗教で,原理主義になれば戦争を起こす.

第四章 脳と心とスピリチュアル

ファッションは他人に対して自分がどういう人間かという情報を送る非言語的な機能がある.ファッションが売れるかどうかは情報を受け取る側のロールモデル=仮想の自分をいかに象徴的に表わせたかにかかっている.しかしその暗号を受け取って解読してくれる通信相手はいない.仮想の他人を自ら作り出すことになる.それに振り回されてさらに意味のない付加価値を得ようとする.自分の定義のつもりでファッションをしても,デコードしてくれるのは自分自身かよくて同じように勘違いした特定少数のみだ,


アートに他人の目は関係ない.逆にアートでないものは他人の目を意識したものだ(売れることを考えたもの).機能の持つ情報を抽出したものがシンボルであるが,シンボリックな手段で表現したものがアートだ.ファッションやカードがシンボルになること自体は悪くないが,他人の評価を気にし始めるとシンボルが独り歩きする.仮想評価を始めると自分の本質から離れていき,さらにその評価が主となってこんどはその仮想評価に自分がふさわしいかという問題にすり変わってしまう.「終わらない自分探しの堂々巡り」に陥る.スピリチュアリズムも同じようなものだ.


ホメオスタシスは情報空間にまで広がっている.強い信念のある人(強い臨場感を持つ人=情報空間における身体が大きい人)に同調して引き込まれる.ハーレム男がつかったストックホルム症候群もこれを利用している.ラポール=信頼感を築き,同じ世界を共有する.つり橋効果でもラポールが見られるが,一番強いラポールはつり橋を揺らしている人に対してである.


臨死体験を説明するには2点の事実がある.一つ目は脳が壊れるときにVTA領域からドーパミンをはじめとするありとあらゆる脳内伝達物質が放出されるので気持ちがよいということ.そして同時に幻視・幻聴・幻覚が起こる.さらに時間感覚に変化が訪れ,時間が無限に長くなる.脳が超並列的な計算機であるからだ.


あの世がないと考えればそれで終了だし,あると考えればそれは高度な抽象空間であるので準備運動として臨死体験で大量のドーパミンが出ているとも考えられる.いずれにせよ,その先は考えても意味がない.


浅間神社に行くと結界を感じられるが,これは情報空間の一種である.したがって鳥居をくぐると冷気を感じる.脳内に形成された臨場感がホメオスタシス作用して寒々しく感じたのだ.


人類は情報空間に対して脳と心(意志)を使って働きかける能力があるのではないか.強い意志の力が情報空間に何らかの影響を与えて,それが先祖から引き継がれて徐々に遺伝子が書き換えられたのかもしれない.そして,情報空間に対して影響を与える能力を開花させる方法論の一つが密教である.


祟りにも同調してしまう.信じていなくても祟りの話を知ってしまう,それだけでその情報空間に侵される.まさに互いに互いを洗脳している状態だ.祟りという言葉自体がトリガーで,アンカーは日本の歴史に営々と築き上げられてきた臨場世界である.これが日本教の正体である.


スピリチュアリズムでは永続した魂を認める.これにより手っ取り早く死の恐怖を克服できる.また,この世の苦しみがあの世の喜びに変わるという教義は受け入れやすい.しかしこれはブッダやキリストが否定したことだ.死の恐怖には真正面から対峙しなければならない=止観.

自分が克服したいことと徹底的に向き合い,自分の脳を使って抽象的な説明原理を加えて洞察していくことが,人間がやるべきことであるはずです.それを根本から否定し,人間に「思考停止しろ」と言うのがスピリチュアリズムだと言っても過言ではありません.

補遺 科学と宗教
おわりに 生と死とスピリチュアリズム

感想

仏教思想について分かりやすく解説されているのでよかった.専門書を読むための入り口になるとおもう.

調査事項

念写写真≒ロールシャッハ・テスト
健忘暗示
統一教会
ハーレ・クリシュナ
バグワン(Osho)
GLA教団
サイエントロジー
大本教
霊界物語
幻魔大戦」,平井和正
「サイキックマフィアーーわれわれ霊能者はいかにしてイカサマを行い,大金を稼ぎ,客をレイプしてきたか」,M・ラマー・キーン
NLP創始者 リチャード・バンドラー
タントラ・ヴァジラヤーナ
「差別と迷信」板倉聖宣,住本健次 共著
十干・十二支
閑話休題
黄泉がえり
花田少年史
「いま,愛にゆきます」
理趣教
イエズス会の神父になるのに博士号3個必要?
龍樹(アーガアルジュナ
大蔵教
フリーメイソン
ミルトン・エリクソン
カール・ベッカー臨死体験の権威)
VTA領域
恵心僧都(えしんそうず)
古神道道家との交わり・陰陽師
シルバーバーチの霊訓
止観
阿含経典の自説経(ウダーナ
十二支縁起
ミリンダ王問経「ミリンダ王の問い」
「コスモス」カール・セーガン