「情報」を学び直す

「情報」を学び直す (NTT出版ライブラリーレゾナント)

「情報」を学び直す (NTT出版ライブラリーレゾナント)

概要

情報は何かという考察に始まり,確率の考え方,シャノンの情報理論,通信理論について分かりやすく解説している.また,いわゆる工学的な教科書とは趣を異にしており,文系的領域にも大いに踏み込んでいる.これは「コミュニケーション」を定量的に計測する手法が考案されておらず,それにより取り扱いが困難であることに起因している.


例えば,「第6章 通信からコミュニケーション」では情報共有の難しさについて,俳句や「雪国」を英語訳する際にその情感がありのままには伝えられないことを例に出している.また,増幅装置を例に取り,会話における信号の授受は背景知識という大きな認識をコントロールするための表層的な営みに過ぎないとも述べている.


情報に対してはシャノンの情報理論,知能に対してはチューリングテストという客観的な尺度がある.しかし,コミュニケーションに対してはまだそのような尺度はない.これを決めることが出来ればコミュニケーションの研究が飛躍的に進歩するかもしれないと結論づけている.


内容

第1章 情報を得る

1.癖を読むーー野村選手と稲尾選手の駆け引き
2.データを読む
3.結果から原因を探る

第2章 「情報」の生い立ち

1.「情報」の語源
2.「情報」の特徴
3.「情報」の解釈を巡って

第3章 誤解される「確率」

1.ベンチマークテスト

問題 クジが100本あり,1本が当たり,残り99本は外れであるが,外からは見分けがつかないようになっている.いま甲,乙2人が順番にこのクジを引くものとする.まず甲が100本のクジの中から最初に1本引き,内容を確認せずにそのまま保持しておく.次に,残り99本のクジから乙が1本引いて内容を確認したところ,外れであった.この時点で先に引いた甲のクジが当たりである確率を求めよ.

答え:1/99


2.サイコロのもたらす確率

  • 誰もが認める客観性を備えた確率:客観的確率 (例:サイコロ,クジ)
  • 個人の知識,経験によって異なる確率:主観的確率 (例:天気予報,選挙)


主観的確率は理論的に導けず,同じ条件で繰り返すことも困難である.


3.もう一つの確率ーー火星に生物が存在する確率
客観的確率も主観的確率も,不完全なデータの元判断を行う際の確信度であるといえる.サイコロの目は初期条件や材質等がすべてわかれば出る目が確実に予言できるかもしれないが,そのようなデータを揃えることは不可能である.したがって,各目の出る確率は1/6だが,その確信の度合いは客観的である.


4.変化する確率
情報を得ることで事前確率から事後確率に変化する.つまり,情報を得ることで確信の度合いが上がる.

第4章 情報を図る

1.むすめふさほせ
2.「二十の扉
3.情報量
4.曖昧さを計る
5.情報の意味と価値

第5章 情報を伝える

1.コミュニケーションモデル
2.情報圧縮ーー無駄を減らす
3.認識通信ーー究極の情報圧縮
4.手段としてのコミュニケーション

第6章 通信からコミュニケーションへ

1.コミュニケーションとは

英語の「communication」は,「共同・共有」を意味するラテン語の「communis」に語源を求めることができます.

すなわち,お互いの考え方,価値観はもちろんのこと,時には喜び,悲しみ,感動といった情感までもが共有できるのが「communication」本来の姿です.


2.共有の難しさ
3.コミュニケーションの階層構造
4.共有の鍵ーー阿吽の呼吸

第7章 情報と人間

1.情報処理戦略としての錯覚
2.マルチモーダルなコミュニケーション
3.人間の直感

腫瘍マーカーの例:

特定の癌に対して98%の検出力のある腫瘍マーカー.ただし,癌でない人にも1%は陽性反応(疑陽性).また,癌の罹患率は0.1%.この時,この検査を受けて陽性になった場合,癌である可能性はいくらか?

<----------------------10万人---------------------->
<---------9万9000人(健康)---------><-100人(癌)->
[                            ][999人][    98人   ][]
                              <-------陽性------->

つまり,癌である可能性は98/(98+999)=8.9%にすぎない.

癌であれば98%検出できるマーカーであるが,陽性反応が出れば98%癌であるとは主張していない.にもかかわらず陽性反応が出たときに98%という数字に恐れをなしてしまうのは0.1%という低い罹患率を考慮していないからである.


4.「三つの扉」

三つのドアA,B,Cがあって,出題者は解答者の見ていないところでそのうち一つのドアの後ろに賞品を隠します.解答者がどのドアに賞品が隠されているかを当てればその賞品がもらえるというものですが,問題はもう少し複雑です.解答者がドアAを選んだとしましょう.解答者が選ばなかった残りのドアB,Cのうち,少なくとも一つは外れ(賞品無し)です.そこで,出題者は,

「私は正解(賞品の隠されているドア)を知っていますので,残ったドア二つのドアのうち外れのドアを開けてお見せしましょう」

といって実際に外れのドア,たとえばドアBを開け,確かに賞品がないことを確認させます.そして,さらに出題者は解答者に向かって次のように言います.

「最初に選んだドアAのままでもよいですが,まだ開けていないドアCに変えてもかまいません.どうしますか」.

さて,解答者はどのような行動をとるべきでしょうか.

答え:ドアCを選ぶ.ドアAの確率は1/3のままであるが,ドアCの確率は2/3となるため.


5.問題のからくり
6.人間の直感の合理性と非合理性

第8章 ゆとりあるコミュニケーション

1.無駄話の効用
2.無駄によって頑丈に
3.無駄の活用例
4.すれ違いを楽しむ
5.目的としてのコミュニケーションーー癒しを求めて

第9章 コンピュータとのコミュニケーション

1.コンピュータによる癒し
2.コンピュータの知能
3.常識あるコンピュータ
4.インタビューア・コンピュータ

第10章 コミュニケーション考

1.コミュニケーションの多様化
2.人間とコンピュータの共生
3.ランドマーク型メッセージ
4.社会とのコミュニケーションーーノーベル受賞者数を巡って
5.訣別への期待

感想

調査事項

阿部圭一「明文術ーー伝わる日本語の書き方」NTT出版
市川申一「確率の理解を探るーー3囚人問題とその周辺」共立出版
「仏国歩兵陣中要務実地演習軌典」酒井忠恕訳
石井健一郎「心と認知の情報学」勁草書房
西垣通「基礎情報学ーー生命から社会へ」NTT出版
野口悠紀夫「「超」勉強法」講談社
Shannon, Claude E., & Weaver, Warren,"The Mathematical Theory of Communication," University of Illinois Press, 1949.
マガーク効果
ストリーム・バウンス錯覚,反発誘導錯覚
モンティ・ホール問題
ELIZA
齋藤孝「質問力――話し上手はここが違う」筑摩書房
Turing, Alan M., 'Computing Machinery and Intelligence,' "Mind," vol. 59, 1950.