ハーバード流交渉術
- 作者: ウィリアム・L.ユーリー,WilliamL. Ury,斎藤精一郎
- 出版社/メーカー: 三笠書房
- 発売日: 2000/03
- メディア: 単行本
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概要
交渉における心構えを説いた本.細かい戦術よりも戦略が重視されている.したがって「明日○○円の契約を結びたい」という用途には即戦力とはならないが,ありとあらゆる交渉事で使える原則が書かれている.また,細かく具体例が挟み込まれているので理解しやすい.
内容
序章 これが「つねに最高の成果をあげる」交渉秘訣
5ステップ
- 自分をコントロール:バルコニーに上がれ
- 相手の反抗的な気持ちを切り崩す:交渉相手の武装解除
- 原則立脚型のブレーンストーミングにする:ゲームのやり方を変えよ
- 金の橋を架ける:交渉相手がイエスといいやすいようにする
- 教育する:交渉相手がノーと言いにくくなるようにする
1章 ハーバード流/相手の「性格・やり口」を見抜いて勝つ!
人間の反応のパターンは以下の3種類
- 反撃:反撃の応酬になる 「目には目を」
- 譲歩:弱みに付け込まれる 「譲歩者というのは,虎にステーキを与え続ければ,しだいに草食動物になってくれると信じている,とんでもないお人好しのことである」
- 断交:代償が高い(時には必要)
交渉相手の戦術は以下の3種類
- 妨害的戦術:「既成事実」自分の立場は変えられないと暗示をかけてくる
- 攻撃的戦術:「脅し」譲歩を強要する高圧的な態度
- 欺瞞的戦術:「だまし」数値データのごまかし,決定権詐欺
感情的な反応をすると客観的な判断ができなくなる.したがって,いちいち反応しないことが肝要.自身と相手が舞台の上で交渉している様子を想像し,自分はそれをバルコニーから超然と客観的に観察している心理状態になるとよい.どんな攻撃も個人攻撃とはとらず,挑発は無視する.反応する前に一呼吸置く.
「怒りを感じた時は,口を開く前に一から十まで勘定せよ.ひどく怒りを感じた時は百までだ」
冷静になる時間を作るために話を戻す.「もう一度ゆっくりおっしゃってください」.メモを取っているとこのセリフが使いやすい.休憩をとる,影武者を用意するのもよい.重要な決定は一晩おいてからする事.
自分の交渉条件を具体的にする.なぜその要求が必要なのかをよく考える.相手の要求はまず背後事情をよく考える.
交渉の前に「最良の選択」を決める.これは他人に関係なく自分が最も満足できる自己満足度の高い選択肢である.最良の選択は既成のものでは甘い.常に改良する.これが値踏みの物差しになるし,安心材料および保険となる.以下の3種類がある.
交渉には期限を設けなければならない.
2章 こうすれば交渉相手が”最大の協力者”になる!
まず,相手の話を聞く.相槌をつきながら,更なる話を促す.相手の行ったことを言い変えて繰り返す.相手に理解を示し,人格を認めることが肝要.先に「私があなたの立場なら…」と先制攻撃するのもよい.ただし,自信のある何物も恐れない豪胆な態度が必要.
どれだけ無理難題を言われても,同意できる1%に焦点を当てる.さらに相手がイエスと言える機会を増やす.相手に逆らわず反対意見を言うために「AかBか」ではなく「AもBも」という態度で接する.「しかし…」ではなく「はい,そして…」という.自分を主語にして話す(相手を主語にすると考えを押し付けることになる).
動作も相手に同調させる.自信過剰・権威主義の人間はそのあたりをくすぐる.あらかじめ良い関係を築いておくとよい.
交渉の3点セット.
- 交渉相手の意見を認める
- 自分の考えを主張する
- 両者の食い違いは必ず解決できるという楽観的な見解の表明
3章 この方法でどんなに不利な状況も必ず好転・逆転できる!
相手の身勝手な言い分を「再構築」し,双方が満足できる合意の材料にすることでゲームの方法を変える.会話をブレーン・ストーミングに変えていく.
まず,問題点に注意を向ける.質問はイエス・ノーで答えられない「5W1H」にする.「何が問題なのか」「なぜ…ではないのか」.相手が満足する質問を必ず用意する.さらに手の内を明かさない場合は勝手に相手の本音を予想して投げかける.それでもだめならこちらの手の内を明かす.「もし…なら,どうする」で,可能性のある解決法を生み出す.沈黙はOK.
相手が理不尽すぎる場合には客観的基準を論じる.それも相手から引き出す.「なぜそれが正当だと思うのか?」.攻撃は無視する,提案に関する部分だけを問題として取り上げる,自分に好意的な提案と解釈する.「あなたと私」から「私たちへ」とすることで非難を共同責任へと再構築する.
デッドラインは無視する.もしくは目標ととらえる.
交渉の仕方についての交渉を行う.相手のメンツを立てつつ相手の戦略を見破ったことを表明する.「素晴らしい演技だ」「あなたは私を脅してませんよね」
4章 交渉で手に入れる「パイ」に限界はない!
相手の「立場を守るための退却」を「より好ましい問題解決への前進」という考えへ再構築.相手を引き込む.交渉相手との間に金の橋を架ける.譲歩したほうが良い結果をもたらすことを悟らせる.勝利したと思わせる.
相手の神経を逆なでするのは以下の4種類.
- 相手の「やり方」や「考え方」が気に入らない
- 自分の利害に合致しない
- 自分の面子を失うことへの恐れ
- 問題が大きすぎ,時間がなさすぎる
とにかく話すこと.そして質問することに重点を置く.相手の考えに基づいて交渉する.ただし,自分の進みたい方向にリードする.相手からのフィードバックを求めていることを強調する.それを嫌がる場合は小さなことを決定させる質問を投げかける.
相手の立場に立ち,本当の反対理由(根本的欲求)を探り当てる.パイの大きさは決まっていない.「もし…ならば」でパイを広げる.
相手が譲歩せずに,面子を保って後退できるようにする.交渉相手が仲間からうける批判をあらかじめ予測し,それに対して説得力のある説明ができるよう理論武装させる.解決策が自分のアイデアであっても相手にその手柄を分け与えるべきだ.自分が見つけたと公言することは交渉の失敗につながる.
また,大きな問題は段階に分け,ゆっくり確実に進んでいくようにする.少しずつ実験しながら交渉を繰り返す.進捗を確認する.
また,どの部分も交渉の最後まで最終的に決定する必要はないことを確約し,気を楽にさせる.
5章 ハーバード流/これがどんな手強い相手にも”YES”と言わせる秘訣!
力の行使を巧みに使う.基本は「勝利」ではなく「相互理解」をめざす.相手が同意を拒否するのは金の橋より自分の交渉術が勝っていると思っているからだ.教育のために損失の大きさと利益の大きさを理性的に強調する.脅迫ではなく警告を行う.脅迫は相手に対して何をするかを伝えることで,警告は何が起こるかを伝える.タイムリミットもこちらでコントロールできない日時(重役会の日)等にすると脅迫ではなくなる.
「もし,われわれが同意をしなかったら,」
- 「どうなると思うか」
- 「私はいったいどうすればいい(どうする)と思うか」:こちらの選択肢を見くびっている場合
- 「あなたならどうするか」:自分の選択を過大評価している場合
シンボルを用いて圧力をかけるのはよい(弁護士等).ただし控えめに使うこと.また,相手側の人間・中立の人間を引き込むのもよい.
一オンスの力をあなたが用いるたびに,一オンスの譲歩を加える必要があるのだ.
自分の損害を最小限に食い止めるため,相手が合意内容を実行するまでこちらも実行しないでいいような取引にする.第三者を巻き込み,証人になってもらうのもよい.ただし,相手が指名する第三者である.
感想
バルコニーに上がるということは,すなわち「怒りを観察する」ことと同等である.観察された怒りは消失する.これにより冷静に物事を進めることができるようになる.また,A次元の自分を想像するのも似たようなものであろう.